ディベート×演劇

「子どもらが 自分の場だと 思う所に 花が咲く」(徳村彰)を、学校現場で目指します。

日本7-0インド


学校で8時まで仕事。いかん、W杯予選が、予選が〜!

テレビがある食堂に飛び込む。

広い食堂にポツリポツリと中年のおじさん達。みんなテレビに向かう場所に席を占めている。

僕も空いていたテレビを見やすい席を占拠した。近付いてくるお姉ちゃんに、納豆定食を注文する。さあ、これで準備はOK。

テレビは、ちょうど、ハーフタイムだろうか、音楽が流れている。

ところが。

違う。違うぞ。違うじゃねえか。どこかのバンドが鼻にかかった声で歌なんか歌っているビデオが流れている。

・・・どうしてフジテレビなんだ。

この時間に、おじさんしかいない食堂で、どうして音楽番組なんだ。

一番テレビに近い席に座っているおじさんをみる。

野球帽をかぶって、ボーっと画面を見ている。目の前にはビールが置かれている。

お前か。お前がリクエストしたのか。

推定年令55歳。見た目は商店街のおじさんだ。商店街のおじさんは、夜ビールを飲みながら、音楽番組は見ないだろう。「今週のランキングの1位は何かな〜」なんてことは考えもしないのがおじさんだ。

違うだろう。どうしてその格好でみゅーじっくなんだ。

後ろのサラリーマン風の男を見る。30代半ば。W杯の時には横浜競技場まで行っちゃったぜ、といった顔をしている。君の真っ当なあり方は、食事をしながらスポーツだろう。

他のお客の顔を見る。

みんな音楽番組という顔じゃない。

なのに、なんでみんなして、惚け−っとテレビを見ているんだ。

ふと気がつく。

そうか、お前か。そこの女子従業員。

20代前半、いかにもアルバイトですといったお前だな。

お客がいないのをいいことに、自分の好きなテレビを見ていたな。

そこへ、サッカーが気になったおじさん達が入ってきたのだ。

だが、気のいいおじさん達は「チャンネル変えてくれ」とはとても言い出せなかったのだ。

ああ、愉しみにしていた印度戦。

一日の疲れを、久保のドラゴンシュートでいやしてくれるインド戦。

俊輔の華麗なフリーキック、小野の球さばき、アレックスのドリブル突破。

欧州遠征で培った自信を、確信に変えるインド戦。

それを愉しみにやってきたのに。

食事なんか二の次だったのに。

流れてくるみゅーじっく。空ろな目をしたおじさんたち。

そうだ、そうなんだ。みんなこんなもの、見たくないんだ。

「おまちどうさまでした〜」

女子従業員め。お前の野望など、この私が打ち砕いてくれるわ。

『サッカーやってないの?』

言ってやった。言ってやったよ。

「え、サッカーですか。」

やつは救いを求めるように当たりを見回す。

野球帽のおじさんに確認するようにしてテレビのチャンネルに手をのばす。

だが、だれも動かない。当然だ。

チャンネルが切り替わる。

をを、俊輔がフリーキックを決めた瞬間が映し出される。

そうかー、3ー0で折り返したのか。

ちょうど後半が始まるところだった。

ふう。間に合った。

すると、どうだ。

お客が次々と入ってくる。

見ろ。

フジテレビじゃ、こうはいかなかった。

みんなが見たい印度戦。

みんなが見ているインド戦。

お客が入るぞインド戦。

働かずにバイト代だけ稼ごうなんて、そんなせこいことを考えても、お天道様はお見通しなんだよ。

夜だけど。

納豆をかき混ぜ、卵を割り入れ、出汁を入れて、御飯にかける。

インド戦見ながら納豆定食。

味噌汁すすって印度戦。

ああ、至福のひととき。

僕の使命は終わった。

おもむろに席を立つ。

おじさん達の無言の感謝を背に受けながら外へ出る。

勝利は確信した。

後は家でダイジェストを見ようっと。