ディベート×演劇

「子どもらが 自分の場だと 思う所に 花が咲く」(徳村彰)を、学校現場で目指します。

「大森彦七」福地桜痴

明治30年(1897年)10月、明治座初演の舞踊劇。

大森彦七は、太平記に登場する人物。あの楠木正成を切腹させた人物だそうだ。

日本刀おもしろ話・楠正成の怨霊と包丁藤四郎

松岡正剛の千夜千冊『日本架空伝承人名事典』大隅和雄・西郷信綱ほかに詳しい。

ただ、この戯曲の紹介のくだりで、

 それがまた明治に入って舞踊劇になった。福地桜痴の名作『大森彦七』である。これは舞踊として振付を得てまことにエレガントになっているだけでなく、彦七は業平の移し身になっていて、こうしてまたまた新たな物語イメージが加わった。ついに楠木正成在原業平という日本を代表する二大スターがつながったのだから、これ以上の尾鰭はない。

とあるのだけれど、どのあたりが業平の移し身なのか、よくわからなかった。

太平記から生まれた伝説では、楠木正成の怨霊が、鬼女となって彦七を襲うことになっているが、この舞踊劇では、楠木正成の娘が、仇をうちにくるという設定になっている。

そして、正成の持っていた宝剣を彦七が預かっているのだが、娘の孝心に感じてこれを与え、自分は正成の怨霊に取り憑かれて刀を奪われた、と狂人の振りをして踊り狂うという筋になっている。

彦七という人物の描き方に人間味があって、なかなかいい話だ。

太平記の原文は以下の通り。ただし、スキャナーで読み込んだので誤字がある。


 「彦七モ其猿楽ノ衆(シユ)也ケレバ、様々ノ装束共下人(ゲニソ)ニ持
 七テ楽屋へ行(ユキ)ケルガ、山頬(ヤマギハ)ノ細道ヲ直様(スグサ
 マ)ニ通ルこ、年ノ程十七八許(バカリ)ナル女房ノ、赤キ袴二柳裏ノ五
 衣(イツツギヌ)著テ、鬢(ビン)深ク金殺(ソギ)タルガ、指出(サシイ
 デ)クル山端(ヤマノハ)ノ月二映ジテ、只独タタズミタリ。彦七是ヲ見
 テ、不覚(オボユズ)、斯ル田舎ナドニ加様(カヤウ)ノ女房ノ有(アル)
 べシトハ。何(イヅ)クヨリカ釆(キク)ルラン、又何(イヵ)ナル桟敷
 へカ行(ユク)ラソト見居タレ、バ、此女房彦七二立向ヒテ、『路芝(ミチシ
 バ)ノ霞払(ハラフ)べ千人モナシ。可レ行(ユクべキ)方ヲモ誰二問ハ
 マシ。』トテ打ハウチ)シホレタル有様、何(イヵ)ナル荒夷(アラエビ
 ス)ナリトモ、心ヲ不レ懸云(カケジトイフ)事非(アラ)ジト覚(オボ
 ニ)ケレバ、彦七アヤシソデ、何(イカ)ナル宿ノ章二テカ有(アル)ラ
 ソニ、善悪(アヤメ)モ不レ知(シラザル)ヮザハ如何(イカ)ガト乍レ思
 (オそヒナガラ)、無二云革(イフバカリナキ)ワリナキ姿二引(ヒカ)レ
 テ心ナラズ、F此方(コナタ)コソ道ニテ候へ。御拉敷ナド候ハズバ、適
(クマタマ)用意ノ桟敷候。御入(オソイリ)供へカシ。」ト云(イヒ)ケ
レバ、女些打(チトウチ)笑(ヮラウ)テ、『ウレシヤ候。サラバ御桟敷
へ参り侯ハソ。』上苧ア、跡二付テゾ歩(アユ・・、)ケル。羅給(ラキ)ニ
ダモ不レ膠(タヘザル)姿、誠二物痛(イタハ)シク、未一足(イマダヒ
トアシ)モ土ヲバ不レ括(フマザル)人ヨト覚へテ、行難(ユキナヤ、、、)
クル有様ヲ見テ、彦七不レ快(コラヘズ)、『余(アマリ)ニ露モ深ク供へ
パ、アレマデ負進(オヒマヰラ)セ候ハソ。』トテ、前二脆(ヒザマツキ)
タレパ、女房些(スコシ)モ不レ辞(ジセズ)、『便ハビソ)ナウ如何(イ
カ)ガ。』ト云(イヒ)ナガラ、鶴(ヤガ)テ後ロニゾ轟(mリカカリ)
ケル。白玉力何ゾト問(トヒ)シ古(イニシ) ヘモ、角(カク)ヤト思知
ハオモヒシラ)レツ、、嵐ノッチニ散(チル)花ノ、袖二懸ルヨリモ軽ヤ
 カニ、梅花ノ匂(ニホヒ)ナツカシク、括(フム)足キクドiシク心モ
空(ソラ)ニウカレツ、、半町許(バカリ)歩(アユミ)ケルガ、山陰ノ
月些晴(スコシクラ)カリケル処ニテ、サシモ厳ハイツク)シカリツル此
女房、俄二長(タケ)八尺許ハバカリ)ナル鬼卜成(ナツ)テ、二(フク
 ツ)ノ眼ハ朱ヲ解(トイ)テ、鏡ノ面二洒(ソソキ)ケルガ如ク、上下ノ
歯クヒ違(チガウ)テ、口脇耳ノ限マデ広ク割(サケ)、眉ハ漆ニテ首入
塗(モモシホヌツ)クル如(ゴトク)ニシテ額ヲ隠シ、振分髪ノ中ヨリ五
寸許(バヵリ)ナル績(コウシ)ノ角、鱗(イロコ)ヲカゾヒテ生出(オ
 ヒイデ)クリ。其重(ソノオモキ)事大磐石ニテ推(オス)ガ如シ。彦七
 吃(キッ)ト驚(オドロイ)テ、打棄(ゥチステ)ソトスル処ニ、此化物
 (コノバケモノ)熊ノ如クナル手ニテ、彦七ガ髪ヲ川(ツカソ)デ虚空こ
挙(アガ)ラントス。彦七元来シタ、カナル者ナレバ、ムズト引組(ヒッ
 クソ)デ深田ノ中へ転落(コロビオチ)テ、『盛長化物組留(クミト)メ
 クリ。ヨレヤ者共。』ト呼(ヨバハ)リケル声二付テ、跡ニサガリクル者
 共、太刀・長刀ノ翰ヲ放ハハブ)シ、走寄ハハシリヨツ)テ是ヲ見レバ、
化物ハ書(カキ)消ス様二失(り七)ニケリ。彦七ハ若党・中間共二引起
 サレタレ共、忙然トシテ人心地モナケレバ、是直事(コレタダコト)ニ非
 ズトテ、其夜ノ猿楽ハ止(ヤメ)ニケリ」。
(「太平記」巻23「大森彦七事」)