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第10回ディベート甲子園観戦講座3

中学の部準決勝。

滝中学vs北嶺中学。コメント、えらく長いです。

この試合も一番乗りしようと、早めに出かけていったのだが、東海高校と会津高校の試合の講評が長引いていて、けっこう廊下で待たされた。ま、Yさんが主審ということなので、仕方がないねー、と納得して待つ。

廊下に大会スタッフの女子学生がいたのだけれど、聞くと、第8回大会でうちと初戦に対戦した方だった。懐かしいねえ。しばらく昔話をする。

ようやく講評が終わってみんな出てきたが、どうやらすごい試合だったらしい。だれか見ていた人、試合の詳細を教えてくれないかなあ。

さて、この試合だけれど、僕のすぐ前に村上君が座っていた。市野君と組んで「チームエラ星人」として活躍してきた優秀なディベーターだ。僕は顧問としても、チームツートップとしても、彼には勝ったことがないんだよねえ。現在は九州支部のスタッフとして活動しているけれど、来年には教師として東海支部に戻ってくるとか。彼が指導したチームが全国大会に出場する日も遠くはないってことだね。楽しみ楽しみ。

さて、試合だけれど、肯定側のメリットは「レジ袋の減量」。否定側のデメリットは「企業倒産」。この試合は非常に実力が伯仲していて、どっちに転んでもおかしくない大接戦になった。

まずメリット。この論題では定番のメリットだ。レジ袋が減るという根拠には、生協で7割がマイバッグを持参するようになったという資料を読んでいた。

レジ袋の7割が減ることで、どういう良いことが起こるのか。2点に分けて説明していた。この説明の仕方に工夫が見られ、説得力のあるものになっていた。

1点目は「石油消費の削減」。プランによって削減できた分を、他のエネルギーとして使うことができるというもの。

いろいろリサーチしていくと、例えば化石由来の資源は、加工品として使うのではなく、エネルギー源として使うべきだ、といった主張が見られる。ただ、こうした主張をどう立論の中でわかりやすく説明するかとなると、意外に難しい。

滝中学は、レジ袋一枚のために使われる石油で、60ワットの電球を一時間つけることができる、といういい方で節約の重要さを説明した。

これって、他のチームでは見られなかった説明の仕方だなと思った。レジ袋削減によって節約できる33.8万キロリットルの石油の大きさをどう説明するのかということなんだけれどね。「日本の年間消費量の一日分が節約できることになる」といったいい方が一般的だったのだけれど、滝中学はそれをもっと身近なイメージとして捉えてもらおうと工夫したんだと思う。

2点目は「ゴミ処理費用の確保」ということ。
別海町?という所の資料から、ゴミが増え続けているために、ゴミ処理のための最終処分場の容量が不足していたり、土地の確保が難しかったりするため、ゴミの減量が求められているという現状の問題を紹介。プランによってゴミが減量でき、さらに税収を環境対策費用にできるので、財政を賄うことができるというのを、愛知県の資料から具体的な数値を上げて説明していた。

プランでは税収は各市区町村に入る訳だから、実際にどのくらいの税収があって、それでどの程度環境対策比が賄えるのかという説明は、非常に具体的でわかりやすかった。

さて、対する「企業の倒産」というデメリット。

AとBの二つの場合に分けられていた。

Aは「レジ袋製造業者」の場合。発生過程を3点に分け、1価格転嫁できない、2現状で倒産する会社が出ている、3倒産しないために社運をかけてギリギリの努力を続けているという説明をした。このような状況で、一気に7割減ることは、とどめを刺すことになるという構造だった。

基本的にはディベートアゴラの立論のパターンを踏襲している感じ。会津若松二中とほぼ同じ資料を使っていたけれど、現状はギリギリで何とか踏みとどまっているのに、プランはとどめの一撃になる、という説明の仕方は北嶺中の方が上手だった。

Bは「小売業者」の場合。発生過程は2点に分けていた。1容リ法の問題、2再商品化委託料の負担があり、レジ袋税を導入すると、さらにチェーン店は数千万円のコストがかかるため、倒産が起こるという説明だった。

Aとちがうのは、Bはレジ袋が減少するかどうかに関わらずプラン導入によるコストが原因で倒産が起こる、としている所。うまく持っていけば、Aは削られても、こちらを残すことでメリットを上回ろうという作戦なのかな、と思った。戦略としては面白いと思う。

ということで、立論の段階ではどちらも「ここで勝とう」という戦略も見えて、なかなか甲乙つけがたい感じだった。

さて、否定側第一反駁。大きく3点の反駁があった。

まず石油消費量の削減について2点。

1点目はレジ袋が減ったとしても原油の消費量は減らないという反駁。「レジ袋入りませんハンドブック」から、レジ袋が石油精製物のナフサからできているという資料を示し、「ナフサしか減らない」ということを指摘した。

2点目はナフサを減らしたとして、効果がないという反駁。僕の取れたフローの範囲で反駁の内容を整理すると、ナフサは石油精製物の中の16.6%を占めている。その中でプラスチックになるのは56%。その中でさらに高密度ポリエチレンになるものは9%で、その中の51.9%がレジ袋になる。したがってプランは石油全体から見たら0.4%を削減することにしかならず、ほとんど効果がないというものだった。

3点目はゴミ処理費用について。

レジ袋が減ったとしても、レジ袋は現在再利用されており、その代替品が使われるのでゴミは減らないという反駁だった。資料はPOFの中野さんの発言から、レジ袋が全く亡くなったとしたら、6割の人が小さなゴミ袋を買うのでゴミの量は同じだ、という資料を提示した。

相手がどういう議論を出してくるかを予想して、重要性を徹底して潰そうというよく練られた反駁だったと思う。

ただ、僕がジャッジだったら、ちょっと説明してほしかったことがある。それは、レジ袋がナフサから作られるということはわかったのだけれど、ナフサというのは、日本に輸入された石油を日本で精製して作られるのか、それとも海外で精製されたナフサが輸入されてくるのだろうか、ということ。争点に決着をつける決定的なポイントかどうかはわからないけれど、ちょっと気になった。

まあ、別のエネルギーに転用できるという肯定側の主張に対し、その量というのはそんあに大きくはないかなという感じは残った。

ゴミ処理の方も、6割は他のプラスチックの袋に転用されるので、それほど大きくゴミが減ることはないのだろうということはわかった。

ただ、環境対策費として税収が使われるという部分は残っているのかな、という判断はしていた。

肯定側第一反駁。

デメリットへはABそれぞれについて2点ずつ反駁していた。

レジ袋業者については、1点目として、レジ袋業者はレジ袋だけではなく、実はマイバッグも作っているので、7割がマイバッグに移行してももうけは出るということを資料付きで反駁。

2点目としてはレジ袋の製造量は元々小さく、同じ材質でゴミ袋、シャンプー、生活用品などを作っているのでリストラが起こるような大きな影響はない、とこれも資料付きで反駁した。

小売業者については、1点目として、実は小売業者であるスーパーがレジ袋税の導入を求めているということを西友の資料を挙げて反駁。スーパーだけで有料化したら他の店に逃げられるのでやりたくてもできないという資料ね。

2点目として日本チェーンストア協会の佐々木さんという人の発言を毎日新聞から引用。減らすために法律で決めてくれという資料だった。

したがって、コスト増による負担は対したことがなく、返ってコスト削減になるので、メリットになるのだというターンアラウンドを行った。

レジ袋製造業者というのはプラスチックの成形をしている業者だから、2点の反駁はなかなか有効だったと思う。

さらに、小売業者の負担への反駁は、当事者の小売業者が法制化を求めているということ、西友の例で具体的な数値も上げており、その部分が削減されるという議論が、事務コストが数千万円かかると言っている否定側の主張より具体的だったかなという感じを受けた。

ただし、デメリットへの反駁を非常に丁寧に行った分、メリットの再構築に関しては、石油消費量が減るという部分への反論に対して、元が減る、という反駁しかできなかった。

ここまで終わって、メリットは石油の消費量にしても、ゴミの減量にしても、かなり小さくなった。

対してデメリットは、レジ袋業者に関してはリストラが起こる程のインパクトがあるのか、小売業者に関しては、もしかしたら事務コストと現在のレジ袋無料サービスのためのコストとを比較したら、プラン後の方がコストが減りはしないかという疑問が出されていた。

こうなると、それぞれの論点に関して、第二反駁がどうまとめるかで、試合はどっちに転ぶかわからない。

否定側第2反駁。デメリットの議論に関して。

レジ袋業者について。

マイバッグを作っているから7割がマイバッグになっても利益は出るということに関して、マイバッグを買うのは一回だけなので、マイバッグによる利益は一時的であり、損失のカバーはできない、と反駁。

レジ袋の製造量は元々小さいので、他の製品を作ることでリストラまでは起こらない、ということに関しては、今ギリギリで持っているのが、とどめを刺すことになってしまう。他の製品を作った所でカバーできるのか、という疑問を提示した。

小売業者について。

西友の例は、西友という大企業の話であり、コンビニや八百屋などは数千万のコストにより倒産すると反駁。

コストが削減されて返ってメリットになるという議論に関しては、納税システムの転換から起こるコストだという反駁をした。

個々の論点に対する反駁は、非常にトレーングされているなという感じがした。しかし、全部の論点に反駁することで、逆にどこで勝ちたいのかがちょっと見えなくなった。

多大な負担がかかるという所でデメリットの根拠として挙げていた資料は「チェーン店で数千万かかる」というものだった。この資料を見ると、コンビニはともかく、八百屋って数千万ものコストがかかるのだろうか、という疑問が残る。
そうなると、小売業者のコストに関しては、返ってコストが減るという肯定側からのターンが残っているかなという感じになる。

となると、レジ袋製造業者の方のギリギリで保っているというところをもう少し丁寧に反駁した方がよかったかな。特に3点目の資料はかなり良い資料だったと思うので、ここを引っ張って、他の製品を作るにしても、設備投資して導入している機械は転用がきかないとか、いい方を工夫して自分達の主張を再構築できると良かった。

メリットに関しては、相手から反駁があまりなかったので、第一反駁で述べた所を確認する程度だった。

本当は、ここでもゴミ処理費用への反駁の所で、ゴミは逆に増えるといういい方をしたのだけれど、1反で引用した資料では六割は代替されるという資料だったので、増えるという所までは証明しているようには聞こえなかった。だから、増えるというのなら、第一反駁でそういう資料をもう一つ読んでおくべきだった。

否定側第2反駁が終わった所で、メリットに関しては、石油の減量に関しては、減るという事自体は残っているが、その重要性はかなり小さくされている。

ゴミの減量に関しては、ある程度の部分は小さなゴミ袋を買うなどの行為によって削られるので、肯定側が主張するよりは減る量は少ないだろう。ただ、税収でゴミ対策費用を賄うという議論は手つかずで残っているのだが、争点になっていないので、これを決定的な理由としてメリットは大きいとするのもちょっとためらわれる。

デメリットに関しては、レジ袋製造業者に関しては、7割削減がとどめの一撃になるかということに対して、マイバッグを作ったり、他の製品にシフトすることで、リストラが起こる所まで行くかどうかが、不明になっている。

小売業者に関しては、レジ袋無料サービスのコストと、プラン導入による事務コストとの比較でどっちかな、ターンの方が大きいかな、という感じだった。

さて、最後の肯定側第2反駁。

メリットに関しては、まず石油消費量が減ることは否定側も認めている。小さいことでも具体的に説明した肯定側の議論が勝っていると反駁。

ゴミ処理費用に関しては、これも税収が入ることは認めているという反駁だった。

デメリットに関しては、レジ袋業者について、マイバッグの方がレジ袋より単価が大きいので、大きな利益は出る。ギリギリで踏みとどまっているという議論に関しては、生活はできる、リストラは起こらない、したがって大きな問題ではない、と反駁。

小売業者に関しては、質疑で小売店はスーパーだと確認したので、大企業だけでなくスーパーは導入を求めていると反駁。

ということで、試合は終了した。

これは、かなり頭を悩ませた。

メリットについて。

石油消費量が減ることは確かにそうなのだけれど、肯定側が立論で述べた、60ワットの電気を1時間つけられるという話と、石油全体の0.4%の節約にしかならないという議論のどっちをとったらいいのやら、ジャッジの主観にゆだねられている。

ここは、僕はそう大きな重要性はないと判断した。

ゴミ処理費用に関しては、肯定側がいう程の削減は期待できないにしても、現状より減る方向へは動くだろうと判断した。できれば、重要性の部分を、肯定側はもっと反駁の中でアピールしてほしかったが、そうはならなかったので、まあ減るという方向性だけを取ってそれほど大きくは評価しなかった。

デメリットについて。

レジ袋業者に関しては、リストラが起こるという部分までは、肯定側からの反駁で証明されていないと判断した。

問題は小売業者のコスト負担。ここでデメリットが大きく残れば、あまり評価していないメリットより上回ることができる。

しかし、肯定側第一反駁の反駁が非常によかった。西友の例は、否定側のチェーン店の負担が数千万という例とかち合っていたと判断した。となると、現状のコストの方が、プラン後のコストを上回っており、プラン導入により、返ってコストは減ると判断した。

ということで、全体としては、レジ袋が減る方向に動き、その結果石油消費量、ゴミ、小売業のコストなどが減る方向にシフトするので、肯定側の議論が上回ると、僕は判定した。

ジャッジの判定は、3−2で肯定側の勝ち。主審は安藤さん。「ジャッジは馬鹿なんです」という話をして、自分達がわかっている議論を、いかにジャッジに納得させるかを工夫してほしいということをコメントしていた。

たしかに、数字が色々出てくると、その評価は難しいね。言ったから通った、ではなくて、もう一歩詳しく説明する手間を惜しまないでほしいと思う。

それにしても、中学生でもこれだけのレベルの試合ができるのかと、感心した試合だった。

さて、この試合で二日目は終了。僕が解説しながら3試合を見た訳だけれど、生徒たちは決勝トーナメントに残ったチームとやっても、自分達は勝てたんじゃないか、という手応えを感じたようだった。

ただね、見て、わかるのと、実際に試合をしてできるのとでは違うのですな。この部分をはき違えてはいけません。

ただ、それぞれの議論がわかって、それに対してどんな風に反駁を展開していったら勝てるのかがわかったというのは、進歩です。

僕が解説しなくても、自分達でそれができるようにしていくのが、これからの課題でしょう。

そのためには、まずフローシートをしっかり取ること、これですね。