仲秋の名月
仲秋の名月を歌ったわけではないのだが、思い出す詩がある。
湖上 中原中也
ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう。
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
沖に出たらば暗いでせう、
櫂から滴垂(したた)る水の音は
昵懇(ちか)しいものに聞こえませう、
―あなたの言葉の杜切れ間を。
月は聴き耳立てるでせう、
すこしは降りても来るでせう、
われら接唇(くちづけ)する時に
月は頭上にあるでせう。
あなたはなほも、語るでせう、
よしないことや拗言(すねごと)や、
洩らさず私は聴くでせう、
―けれど漕ぐ手はやめないで。
ポッカリ月が出ましたら、
舟を浮べて出掛けませう、
波はヒタヒタ打つでせう、
風も少しはあるでせう。
以前中3の授業で「恋の詩を読もう」ということで、いくつかの詩を取り上げて読んでいた。
先行実践があって、その追試をしていたのだが、その中にこの詩があった。
で、この詩の最初に「ぽっかり月が出ましたら」と書かれている。
この月はどんな月なのだろう、という発問があった。
「三日月」「半月」「満月」…
生徒からはいろいろと意見が出た。僕は「ぽっかり」という語感から、満月じゃあないのかな、という答え方をしていた。
今だったら、もうちょっとましな理由を付けて、「この月は満月だ」と説明ができる。
とまれ、今日のような明るい月の下で、ボートに乗って、彼女の語る言葉に耳を傾けているなんていうシュチュエーションは、かなり好きである。