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「嘆きの壁の前で」コンラート・ヴェンシェ作 津川良太訳

燃え盛る街から、逃げ出す民衆。
 ええ格好しい、ということでは、この作品のクレーメンスという男もそう。
 父親を殺し、ケガをして、妹の世話になりながら、ありもしない夢物語を語り続ける。
 いつの間にかその男から妹は離れていき、最後は冷ややかに他人として兄を見つめるようになる。
 そこには、過去にしがみついて離れられない男と、過去をさっさと脱ぎ捨ててまさに別人としていきようとする女のしたたかさが描かれているように感じる。
 男の夢物語は最後の最後に、こそ泥に殴打されることで踏みにじられる。
 しかし、男の懐のものを奪い取ったこそ泥にしたって、逃げて行く先に待っているのはばら色の世界ではない。